振り込め詐欺被害を食い止めようと、愛知県警は1日から、名古屋市内の高齢者世帯を中心に”新兵器”による防止対策の実験を始める。振り込め詐欺とみられる発信元からの着信を自動的にカットする機械を電話機に取り付ける。昨年の愛知県内の振り込め詐欺被害は369件で全国ワースト4位。手口は巧妙化しており、県警は有効な予防策を模索している。
「だまされないという自信が持てなくなった」。実験に協力する名古屋市緑区の主婦、成田淳子さん(56)は参加理由をこう話す。知人が体験した息子を名乗る振り込め詐欺の手口を聞き、県警緑署の呼びかけに応じたという。
県警から支給されたのは電話機につなぐ小型の機器。県警が指定した番号から電話がかかると、赤いランプが点灯し着信を拒否する。非通知の場合も同様だ。「怪しい電話を取る心配がないので安心できる」と成田さんは話す。
この着信拒否装置「トビラフォン」を開発したのはベンチャー企業のトビラシステムズ(名古屋市)。全国の警察や国民生活センターなどが把握している振り込め詐欺や違法セールスに使われた電話番号を登録。電話がかかってくると、インターネット経由で2万件を超える「迷惑電話」のデータベースと着信番号を瞬時に照合し、該当すれば着信を拒否する。
データベースにない電話でも、内容から詐欺の疑いが強いと利用者が判断すると回線を切断。同じような報告が相次いだ場合はその番号を対象に加える。県警は「常にデータベースが更新され、迅速な予防対策が可能」と期待。100世帯に無償で貸与し、3ヶ月間有効性を検証する。将来的には、同社が希望する世帯にレンタルする方式などを検討する。
愛知県警によると、近年は振り込め詐欺の手口が多様化している。これまで主流だった息子や警察官を名乗る「おれおれ詐欺」は減少傾向で、還付金を支払うために登録料が必要などと嘘をつく「還付金詐欺」や、中小企業などに融資を持ちかける「融資保証詐欺」などが増加傾向という。
さらに一度被害に遭った人がさらに多額の被害に遭うケースもあり、昨年1年間の被害件数は前年比24%減ながら、被害総額は6億2933万円と2%増加した。
県警地域安全対策課は「1件でも被害を抑止するために、有効な予防機器への関心を高めてほしい」と話している。
日本経済新聞 2012年(平成24年)2月1日 水曜日